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夏の文楽公演 その3(とりあえず終了) [文楽]

さて、また昨日の続き。
大筋からはとりこぼれてしまうけれど、欠くことのできない人物といえば、長右衛門の妻お絹。
この人が貞女の鏡という女性で、不義(不倫)をした夫をかばうかばう。
「おやま狂ひも芸子遊びも、そりゃ殿たちの器量といふもの」
男なら当然のことと、まぁそう教えられて育つわけだけれども。
結句、離縁されないよう自分のためにするわけだけれども。
「私も女子の端ぢゃもの、大事の男を人の花、腹も立つし、悋気(natu注:嫉妬)の仕様も満更知らぬでなけれども、可愛い殿御に気を揉まし、煩ひでも出やうかと、案じ過ごして何にも言はず、六角堂へお百度もどうぞ夫に飽かれぬやう、(略)」
なんといじらしいことか。自分が嫉妬することで夫の気苦労が一つ増えてしまうなら、それで夫の気持ちが自分から離れてしまうくらいならと、自分の気持ちをぐっとおさえてしまう。
でも、現代でもこんな女性はいるのじゃなかろうか。
そうしてお絹は、お半とのことが近所で噂になっても、優しい舅や意地悪な姑の耳に入らないようにとあれこれ画策するのだ。
それはうまくいったかに思えたのだけれど。結局、夫は年端もいかぬ少女と心中してしまう。
お絹の落胆、いたたまれなさは察してあまりある。
長右衛門の方も、そんな女房に対して申し訳なく思ってはいるのだ。
「不所存な長右衛門を男と思ふて辛抱する、心意気の嬉しさ過分さ。千万年も連添ふて、礼が言いたひ、堪能させたい」
けれど、やっぱり自分は死ぬより他はないと、思うのだ。
じれったいんだけれど、でもやっぱり吉田玉男氏が遣うと、なんだかしょうがないなぁと思えてしまう。

現在、人形遣いさんたちの中で最長老、とびっきりの腕を持つ吉田玉男氏が私は大好きだ。
たくさんの人形遣いさんたちがいらして、それぞれに素晴らしい方々なのだが、
特に玉男氏が遣う二枚目がこの上なくいい男で、目線が飛んでくると、相手は人形なのについ顔が赤くなってしまったりする。
「曾根崎心中」の徳兵衛など、若いから頼りなくて、人が良すぎてだまされて、死ぬ覚悟すら女の方から言われてしまうような弱っちい奴だけれど、玉男氏が遣うとのっぴきならない状況に置かれてしまい、どうすることも何することもかなわず、死を選ぶより他なかったのだ、と思えてしまう。
ただの木偶に命を吹き込むのだから、人形遣いさんによって微妙に印象は変わってくる。
それは人形遣いさんだけでなく、太夫さん(語り)、三味線弾きさんにもいえることだ。
文楽は全くの実力世界なので、芸に精進している方・才能を持った方が自ずと目立ってくる。
私のようなしろうとがあれこれ言うつもりはない。
でも! 玉男氏が遣う人形は本当にいいのだよ。機会があればぜひご覧あれ。
ちなみに、24日の日曜夜、NHK教育テレビ劇場への招待で文楽「仮名手本忠臣蔵」が放映される。「山科閑居の段」の放送なので、残念ながら玉男氏の出演はないのだが。
これは言わずと知れた忠臣蔵のお話。但し、当時実名を出すわけにはいかなかったので、大石内蔵助は大星由良助、妻おりくはお石、吉良は高師直、浅野内匠頭は塩谷判官と名前が変わっているのでご注意を。

長々とおつき合い下さった方、有難う存じます。お礼にこのショット。
    
新大阪駅新幹線出口から地下鉄に向かう途中にいる静御前(今まさに大河ドラマでやってるね)のお人形です。


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コメント 4

紫草

 あ~楽しかったぁ。最近、文楽とは縁遠く、もう何年もTVだけの観賞です。それすらも忘れてしまうこともあり。。。
 なので、久し振りに自分も行ったような感覚で読んでいました。

 お姫様、大好き♪
by 紫草 (2005-07-23 13:04) 

natu

ここ数日はもう自分の煩悩丸出しで、嬉々として書きました。

赤姫の人形は本当に可愛いよねぇ。
今回のお半もそれはそれは可愛らしかったよぉ。
自分ちの店を出て、隣の長右衛門の所へ行くのに、
ちょっとのれんの間から顔を覗かせて外を確認してから一旦中へ入り、
お店の人間に気付かれないようそおっと後ろ向きにお店から出てくるところなんて、
あぁまだ少女なんだなぁ、可愛いなぁって。
道行きなんて、長右衛門におぶさって登場するんだもの。
びっくりでした。
by natu (2005-07-23 21:08) 

nico

いいですねぇ。
未だ見に行った事は無いのですが。そして詳しくない。
年内にはじゅさぶろう記念館に行ってみたいと思ってます。確か浄瑠璃の人形師・・・。(そんな知識しかありません。;)
一度本物を間近で見てみたいです。

静御前、きれいですね。:-)
by nico (2005-07-24 23:11) 

natu

nicoさんへ
 かなり趣味に走った内容でしたから、コメントを頂けてとても嬉しいです♪
 ジュサブローさんはかつてNHK人形劇「新八犬伝」の人形を作られた方です。
東京の記念館はまだ行ったことがありません。行ってみたいですねぇ。
 文楽のこと、詳しくなくても構いませんよ。古典芸能なんていっても、庶民の娯楽だったわけですから。イヤホンガイドというものもあるから、初心者でも大丈夫です。それに。寝ている人も大勢います。気軽に観て下さい。
 最近は文楽も人気のようで、東京公演も年に何度かあるのですが、土日の切符を取るのはなかなか大変なようです。春と秋には地方公演もあり、そちらの方が取りやすいのではないでしょうか。国立劇場ののHPを開くと詳細がわかりますから、ぜひ一度ご覧下さい。
 気に入っていただけるといいなぁ。個人的には凄く面白いと思うのです。一人でも多くの方に見ていただけると嬉しいです。ぜひどうぞ☆
by natu (2005-07-25 00:18) 

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