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文楽初春公演・その2 [文楽]

先日の続きです。

次の演目は「御所桜堀川夜討・弁慶上使の段(ごしょざくらほりかわようち・べんけいじょうしのだん)」。
源頼朝に命じられて、土佐坊昌俊が義経を襲った堀川夜討ちが題材となっています。
とはいえ、この段は、弁慶のお話です。
弁慶の若き日の恋の因果が、どう巡るのか。長くなってしまうあらすじは後にして、まずは感想を。

この段は、涙を誘う哀しい場面です。
奥の場を語る竹本伊達大夫さんは、若い人のような、はっきりと声の通る方ではないのですが、
悲しみにくれるおわさや弁慶、苦痛の中で語る侍従太郎は、真に迫ってとても見事でした。
会場では、あちこちですすり泣く声が響いていました。

姫君の身代わりとして、弁慶に斬られた娘・信夫(しのぶ)の遺骸を抱きしめる母・おわさ。
「これ信夫、ま一度物を言うてたも。これが一世の別れかいの」
まだ見ぬ父に会わせるまでは、と身代わりを断り、無理矢理連れ帰ろうとした所を突然斬られた娘。おわさが半狂乱になるのも無理はありません。
血だらけの娘を抱きしめ、嘆く姿は、身につまされて思わず涙があふれます。
吉田和生さんが遣うおわさは、半狂乱になってあちこち惑う姿がとても哀れで、母の悲しみがひしひしと伝わってきました。
話は進んで、侍従太郎が、返す刀で我が腹に突き立てる様も、話の筋をわかっていながら衝撃を受けました。
妙に生々しかったのは、「白虎隊」を見ていたからでしょうか。
身代わりの娘の首が疑われないようにと、自分の首を投げ出す侍従太郎の行為には、おわさにだけ悲しみの目を見せないという思いやりも感じられます。
ここでほっとしてしまうのは、何故なんでしょう。
ところで、信夫は、弁慶が稚児だった頃、おわさと恋仲に落ちてできた娘。
それにしても、身の丈7尺8寸(2m50cm近い?!)もある大男の稚児姿なんて、ちょっと想像つきませんね。
人に知られて逃げるなんて男らしくない、というのも、弁慶のイメージとは違います。
少年時代の弁慶が起こした出来事の、廻り廻っての因果の不思議さが、面白いなぁと思える(いえ、悲しい結末なのですが)、演目でした。

さて、あらすじです。長くなるのでたたみます。
興味を持ってくださった方は、どうぞお読みくださいませ。

頼朝は、梶原景時の讒言により、平家寄りに見えてしまう弟・義経を疑っています。
頼朝の命を受けた弁慶は、やむにやまれず、義経の子を孕む平家の姫・卿の君(きょうのきみ)の命を奪いにやってきました。
主の子を孕む女性を弁慶が斬れるはずもなく、卿の君の乳人である侍従太郎と妻・花の井と相談の上、身代わりとして侍女(腰元)の信夫(しのぶ)の首を差し出すことに決めました。
そのことをうち明けると、偶然その場に居合わせた信夫の実母・おわさがそれに反対し、身代わりになると言う娘を無理矢理連れ帰ろうとします。
おわさはずっと、娘に父親を会わせてやりたいと探していました。
18年前、旅籠の娘だったおわさは、泊まり客だった当時15,6の稚児と深い仲となったのです。
それを人に知られて逃げる稚児の片袖が、おわさの手に残り、以来その振り袖を手がかりに探し続けているのだと皆にうち明けます。
(おわさは、着ている襦袢の片袖をその振り袖にしています)
母の手から逃れようとする信夫の肩が、何者かによってばっさりと斬られました。
血にまみれて倒れる娘を前に、おわさは半狂乱となりました。
信夫を斬ったのは、弁慶です。
なにゆえに!、と詰め寄るおわさ。
「大事の大事の娘をば、ようもようも惨たらしい。さ、さ、さ、さ、元のようにして返しや」
おわさの嘆きももっともです。
そんなおわさに、弁慶が答えます。
「これには深き子細のある事、とこ吠えずと、さ、これ見よ」
弁慶が着物を脱ぐと、真っ赤な襦袢の片袖は、おわさの着ている振り袖と対となるもの。
信夫の父は、実は弁慶だったのでした。
それなら名乗らせてからでも良かったではないかと嘆くおわさに、弁慶は言います。
「なまなか(顔を)見つ見せては、未練の心も起こらんかと、腕に任せて抉りしもの」
縁を結んだこの襦袢は、弁慶が母から手づからもらったもの。
その襦袢の振り袖が縁で、生まれていたことも知らなかった娘と出会い、今、主君・義経が兄・頼朝から疑いをかけられた絶体絶命の窮状を、我が娘の命を引き替えに救うことができた、と弁慶は語ります。
そうはいっても、
「息ある内、我こそ訪ねた父親ぞと、こんな顔でも見せたらば、さぞ嬉しかろうもの、こればっかりが残念」
と、産声より泣いたことのない弁慶が、娘を抱き上げ、男泣きに泣くのです。
時刻も迫り、侍従太郎は、信夫の首を打ち落とすその返す刀で、我が腹を切りました。
驚く皆に、侍従太郎は語ります。
「この首を添えて渡さば、天地を見抜く梶原も、身代わりとはよも言うまい」
自分の顔を知っている梶原景時も疑うことはないだろうと、我が首を差し出した侍従太郎だったのです。
弁慶は、今一度大事な人の顔を見たいという、おわさと侍従太郎の妻を振りきり、二つの首を持って、館を去るのでした。

さて、最後の演目は、また後日。


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